6月25日〜8月9日
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★6月25日
今朝も普段通りの起床。現在7時40分。朝食を済ませ、和ちゃんの入れ歯をポリデントで消毒中。和ちゃんは今、我が家の住所を確認している。自分の住んでる所が分からないと言うので、和ちゃんに届いた年賀状の宛名のところで勉強の最中。どちらにしても、明朝、同様なことが繰り返されるのだけど。
さてと、昨日はデイサービス・和みのときへスーパーで激安で買ったNEWの夏用ズボンを履かせて出した。お迎えの湯浅さんは和ちゃんを見て直ぐに分かってくれ、
「アッ!! いいズボンですね」
和ちゃんはご満悦になる。こういう気遣いはありがたい。
「和ちゃん。学校でズボンのこと、なんか言われた?」
「せえがなあ、みんな『エエナアエエナア』ゆうてくれてなあ』
と笑顔で報告してくれる。ほんのささやかなことだけれど、誉められるということは誰でも嬉しいはずだ。
で、ここの管理者である北の迫さんのご主人のお父上が亡くなった、と湯浅さんから聞かされていた。
「あのなあ、誰かの?????・・・死んだゆうて、今日は聞いたんじゃけどなあ?」
どういうわけか、鮮明ではないけれどモヤモヤと記憶している。アルツハイマーの進行は現在、鈍行並みのようだ。
オレはパソコン画面から視線を外し、和ちゃんに今、問うた。
「和ちゃん。ウンコ出たか?」
「今日はまだじゃなあ」
と歯抜けの顔を歪めて笑っている。これはちょっと気色悪いぞ。

★6月26日
仙台市での講演が決まった。9月26日金曜日。この日は岡山発仙台便の飛行機はないので、これから他の近隣空港のHPを開いて対策を練ろう。新幹線だったら、時間的にどの程度かかるのだろう?
仙台。オレは少しの間だけど、この近辺に住んだことがある。それは岩沼市。25年も前の遠い思い出の地だけれど。若かったなあ。
さてと和ちゃん。今朝も元気にデイサービス・ゆう倶楽部長浜へと、谷口さん運転する軽自動車で向かっていった。一日の出足はいい。
そういえば、服の埃を落とす毛ブラシを櫛代わりに、今朝一番で和ちゃんは髪を整えていたなあ。でも、夏用掛け布団はちゃんとたたんでオレに差し出した。
まあ、あまり深く考えないようにしよう。

★6月27日
いやまあホンマ、驚いた。
この日記の6月6日に書いているけど、オレはこの日、“事業所外で指定通所介護を提供する場合の取扱いについて”という平成13年11月26日付け長寿第1172号を岡山県長寿対策課から受け取った。これは開示請求したものだけれど、今朝、一通の通知コピーをデイサービス・和みのときの北の迫さんから受け取った。
そのコピーはこの開示請求した内容に関するもので、なんと、長寿第1172号の取扱いを廃止するという通知なのだ。オレが受け取った日から11日後の6月17日に通達を出しているから、どう考えてもオレの意見も多少は組み入れてもらったのかもしれない? 謙虚さが足りないかな?
それはそれとして、デイサービスからのお出掛けがスコブル緩和されたことになる。
岡山県長寿対策課はエライ!!
さて和ちゃん。今朝は濃いベージュ色のポロシャツを着てデイサービス・和みのときへ。北の迫さんから
「ええなあ!」
と誉められて意気揚々と出発していった。なんか、オレも誰かから誉められたくなった。
和ちゃん、か? でもなあ、和ちゃんの息子で良かったと思う。これから和ちゃんがどう変身していくかは未知の領域だけど、和ちゃんが優しい女性であることをオレは知っている。
4時に帰宅したら、笑顔で迎えよう。

★6月28日
和ちゃん。今朝はウンコを一つ捻り出してデイサービス・ゆう倶楽部長浜へと向かった。本当はもう一つ出る様子もあったらしいのだけれど、ウンチングスタイルの姿勢を長く保つことができなかったらしくアウト。ゆう倶楽部長浜で出すのかな?
さてと、今朝は特別記すこともない。この日記も原稿用紙にして500枚を突破したし、今日はこれでお終い。

★6月29日
昨日、オレは記憶にないほど久々に昼寝をした。身体がだるく、寝たいと思い眠ろうとしたことは和ちゃんがアルツハイマーを宣告された後、何十度もあったけれど、眠ったと実感できたのは昨日が久々だった。
そして今朝、先週から引き続いてのドブ掃除。もう若くない。身体がキツイ。朝から缶ビールのお世話になっている。腰がイターイ。
で、時間差が少しあって、今、コープから帰宅した。和ちゃんはコープで買った花を早々に活けている。和ちゃんは花が大好きで、オレも今以上に買ってはやりたいのだけれど、花は高い。高いといっても今日の出費は680円。オレは680円の金額でマジになっている。正直、金持ちが羨ましい。
けれど、今の生活もなかなかいいよ!!

★6月30日
昨日、和ちゃんに簡単なテストをした。
前後。上下。裏表。斜め横。
は判断できる。とはいえヤッパ左右は忘れてしまっている。まあ、今になって左右が判断できるようになることなどないけれど。もっとも、これはこれでいい。笑顔を忘れなければ。
で昨日、和ちゃんは花を活けた。身体で覚えているのだろう。子供のひいき目かもしれないけれど、上手にキレイに活けていた。ただ、花束を三つの花瓶に活けていたのだけれど、一つは造花。
「和ちゃん。一つのヤツは造花じゃねえか? 花瓶も紙で出来とんで。どうやって水を差すんなら?」
しかし、和ちゃんからは以外な反論。意味不明だけれど。
「それは承知しとるよ。それでも、そこがええんじゃが!!」
とりあえず二つの花瓶にまとめたけれど、和ちゃんは残念そうだった。
風呂にも入れた。嫌がらず、
「ハイ」
と入浴してくれる。最近は手間がかからない。
そして今朝、ウンコの大きいのが3個出たと喜んでいる。報告義務を忘れない。ありがとう。

★7月1日
午前中、オレの最新作である『背番号13青春録』が吉備人出版に納本されたのでオレも受け取りに行ってきた。表紙などは近々にHPにアップしようと思う。吉備人の山川社長が言うには、今週後半には岡山の丸善、紀伊国屋などには並ぶとのこと。まだ和ちゃんがアルツハイマーを宣告される前に書き上げていたものだけど、宣告後に和ちゃんを修正しながら原稿にも多々修正を加えたので出版がかなり遅れた。もっとも、時期的にはこれから高校野球シーズン到来なのでチャンスかもしれない。とにかく、オレの青春記だ。
オモシロイデー
さて和ちゃん。昨夜もシッカリ眠っていた。オレはまたまた和ちゃんの寝顔を15分ほど観賞。可愛い。本当に我が母なのか? 疑いたくなる。幼子のように、安心しきって安らかに、さらにはささやかにイビキの音色を轟かせながら爆睡。
いつまでも、安心して眠れる状況下を保ってやりたい。

★7月2日
アットいう間に7月に突入してしまったなあ!! 今日は梅雨の中休み。和ちゃんと一緒に買い物へ出掛けよう。
ところで今朝、NHK連続テレビ小説“こころ”を観たあと和ちゃんに一言。
「どこの家でもいろいろあるわなあ!」
「せえでも、これは作り事じゃろ?」
なかなか一般的な回答が戻ってくる。もっとも、
「今、テレビ読みょん?」
みたいなトンチンカンな問い掛けも頻繁にある。でも、これはどうすることもできない。修正は不可能だ。となると、できることをする。和ちゃんの学習能力と許容範囲内で楽しめることをする。これしかない。
とにかく、今日一日楽しもう。

★7月4日
昨日の日記を飛ばしてしまい、久々に穴を空けてしまった。まあ、日記なんていうのは毎日記さなければならない、などと考え始めると終止符に近づいているような気もするけど。
で、なんで書かなかったというか、書く気力がなくなっていたのだけれど、昨日は『背番号13青春録』の営業で初対面の新聞記者等大勢の人に会い、なにやらとっても疲れてしまいました。歩いた距離も10キロ近くはいってると思うし、47歳をイヤほど痛感させられた一日だったのです。中年。ウーーム? 体感としては老年? 困ったもんだ。
しかし、和ちゃんは元気だ。オレが夏バテしないよう気を付けなければならない。今年も我が家にクーラーはないのだから。買うカネもないぞ。

★7月5日
8時半ジャスト。和ちゃんはデイサービス・ゆう倶楽部長浜へと出陣していった。今朝は少々ふて腐れ気味だったけれど。
というのも、和ちゃんは時々、デイサービスでテストが出題されると確信していて、住所・氏名・年齢・出生地をオレに筆記させようとする。漢字で書いても分からない箇所もあり、いろいろ悩みながら分かりやすくオレも筆記するのだけれど、その努力を和ちゃんは粉砕してしまう。いつの間にやら、どこかに仕舞い込んでしまい、その場所が分からず、またオレに書かそうとする。
「ええかげんにせえアホウ!!」
「テストで出るんじゃから書いといてん」
こんなやりとりが週に何回かはある。ささいなことだけど、イライラしてしまい“アホウ”が飛び出す。もっとも和ちゃん、あまりダメージを受けてない様子。というか、瞬時にそんなことも忘れられるのだろうか? “忘れられる”のならOK。“忘れる”のなら困ったもんだけど。
さて今朝、和ちゃんの寝間着で使用しているズボンからお出掛けズボンに替えようとしたとき。
「和ちゃん。ズボン替えとけよ」
「これ脱いだらフリチンじゃが?」
ズボンの下には、もちろんパンツは履いている。
「なにを言よんなら。パンツ履いとるがな。パンツ履いとるからフリチンじゃねえけど、和ちゃんはオトコの子か? チンチン付いとんか?」
「チンチンは付いてねえけど、そうか? パンツを履いとったなあ」
可愛いオカッパ頭を揺らせ大笑いする。
凛とした野田和子は“フリチン”という言葉など絶対使用しなかった。なんかなあ....

★7月6日
現在時、午前7時45分。朝食を済ませ、歯磨きを終え、ウンコを2個落下させた後の今、和ちゃんは恒例の5円玉を数えている。和ちゃんは昨夜8時に眠りに入り、オレもどうしたわけか久々に熟睡した。オレも8時から眠りに就いていた。今朝は普段より少し身体が軽い。
さて昨日、オレは和ちゃんがデイサービスに行っている間に『背番号13青春録』の発売を友人等に宣伝してきた。で、帰路の岡山駅で赤穂線を待っている時。オレは見てしまった。
たぶん、養護学校に通っている人たちと、その人たちを引率している先生たちだと想像するのだけれど、オレが座っている約10メートル前方に集団でいた。
一人の先生が、一人の生徒と連れだってその集団から離れ始めた。そのとき、男性の先生が生徒のズボンの後方からズボンの中を確認した。先生は微笑んだ。この先生、オレの目には20歳台後半に見えた。生徒はお尻の穴あたりを押さえて歩き始めている。想像は当たっていると思う。
「そうか。あの生徒はウンコを漏らしたんか?」
でも、その若き先生は微笑みを忘れず対応している。
凄くいい光景に見えた。赤穂線車中でも、あの微笑ましい光景が脳裏から離れなかった。今も離れていないからここに記しているのだけれど、もしかして、孤独の中で人生を嘆いている若者よりあの養護学校の生徒の方が幸せなのかもしれない。不幸にして知的障害と共存することになってしまったけれど、“優しさ”に囲まれて生きていると想像させられてしまう。安易に“不幸にして知的障害”という表現をしたけれど、ある人には不愉快に感じることもあるかもしれません。お許しください。
先生もエライ。福祉に携わっていれば当然かもしれないけれど、他人のウンコの始末をするのはシンドイ。シンドイと書いたけど、オレには他人のウンコの始末をした経験はない。和ちゃんのウンコでも“ちょっとなあ!?”なのに。
でも、優しい人たちがイッパイいることをこの目で確認できた。自分でも不思議だけれど、オレの心に爽やかな風が吹いた。

★7月7日
「♪♪鉄砲かついだ兵隊さん、足並みそろえて歩いている。トットコトットコ歩いてる、兵隊さんはキレイだな、兵隊さんは大好きよ♪♪」
和ちゃんと昨日プラッツに買い物に行った帰路、和ちゃんは持参していた傘を肩に担いで歌い出した。オレも初めて聞く軍歌(たぶん、和ちゃんが一生懸命に歌っていた当時は唱歌だったと思う)なので、教えてもらいながら帰った。
で帰って昼食をし風呂に入れようとしたら、裸になってからオシッコに行きたいと言いだした。どんな風にやっているのか確認したかったのでソーと観ていると、オシッコした後にちゃんと拭くのだけれど、トイレットペーパーを小さく丸めて捨てている。オシッコが付着している辺りも手で触っているはずだ。
「アホウ!! なんしょんならー」
思わず、和ちゃんの手をパチン。
そして今朝、和ちゃんはオレをパチンとやった本人と思っていないから報告する。
「あのなあ、昨日じゃったと思うけど、ワタシャ背中を棒で4回叩かれたんよ。なんも悪いことしてないのに。それからなあ、私を棒で叩いた人が言うたんじゃけど、『よそで、叩かれた言うたらおえんで』じゃて」
マイッタ!!

★7月8日
今日、本の件で毎日新聞の取材を受けてきた。記者は24歳の女性記者。取材姿勢が真摯でなかなか良かった。若さが羨ましい。介護の最中、人生の一服のような新鮮さを感じた。
とりあえず今日はここまで。

★7月9日
一昨日、月に一度の定期検診(これはオレが勝手に決めている)のため林病院に出向いた。先月、脳のCT写真とともに血液検査もやっていたので検査報告を聞いた。総コレストロール値は若干高いものの、後の数値は正常だった。総コレストロール値についても、林先生からは、
「あまり深く考えないで、好きなモノ、食の進むモノを食べていた方がいいでしょう」
という指導だった。
オレもそう思う。栄養管理はシンドイ。在宅介護はオレと和ちゃんの二人三脚で、オレが潰れてしまってもアウト。パーフェクトなど目指していたら続かない。基本はバランスだと思う。
さて、今朝も和ちゃんの調子は良さそうだ。ちょっとジャレテ、オッパイを揉んでみたら、
「なんとかしてあげんといけんなあ。せえでも誰かおらんの?」
とのことだった。とりあえず、まともな会話にはなっている。

★7月10日
昨夜は熱帯夜か熱帯夜モドキだったと思うけど、和ちゃんはシッカリ熟睡していた。そのぶん目覚めもスコブル良く、今朝は一緒にゴミ捨てに行ってきた。
今さっき和ちゃんはデイサービス・ゆう倶楽部長浜へと出掛けていったけれど、今朝のお迎えはオレが初めて見る女性で、こういう日は少々心配になってくる。車中で楽しくしてるかな? 等と。
しかし暑い。昨日は和ちゃんも汗をかなりかいていたので、オレは和ちゃんを入浴させた。ゆう倶楽部長浜には今のところ風呂がない。風呂場を設置しているところらしいのだけれど、夏場に向かって少々オレの心は揺れる。楽がしたい。
となると、デイサービス・和みのときへスライドさせたくもなる。ただ、ゆう倶楽部長浜にも大変お世話になっている。早く風呂が完成してくれることを願うばかりだ。

★7月11日
昨日も風呂に入れた。デイサービス・ゆう倶楽部長浜から帰宅して、汗をかなりかいていたので元気をだして入れた。で、よくよく観察すると和ちゃんのオッパイとオッパイと豊かな谷間? に汗疹が出ている。谷間を一生懸命にしごいた。
しかし、今日も33度あたりまで気温は上がっているはず。和ちゃんは、今日のデイサービス・和みのときを含めると4日間連続で入浴している。それでも汗疹が出てしまう。夏場は最低でも週に5日は入浴させたい。となると、デイサービスの日は必ず入浴はしてもらいたいので、デイサービス・ゆう倶楽部長浜へ通っている二日のうち一日はデイサービス・和みのときへスライドさせようか? と考えている。
ところで和ちゃん。昨夜も爆睡だった。寝汗もかかず、たいしたものだ。オレは悶々と夜を更かしたのに。

★7月12日
♪♪ブブー♪♪
早朝の午前5時半。トイレ内より快音が発せられた。
「和ちゃん。出たか?」
「今日は一つ。スルッと出たなあ!」
昨夜も熱帯夜だったにもかかわらず、和ちゃんは爆睡。今朝、血圧を測ってみると106−67。調子はいい。
しかし、なんだかやけに蒸し暑い。オレの身体はベトベトしている。和ちゃんがデイサービスから帰宅したら風呂に入れないとダメかな? 夏場に向かって、入浴が大きな課題になってきた。

★7月13日
今日は一日中雨模様とか。午前9時前早々、コンビニに行って買い物をしてきた。和ちゃんは留守番。帰宅したら、五円玉を数えている。今もオレの隣で数えているのだけれど、いくら数えても厭きないようだ。
ウーン。しかし、和ちゃんのアルツハイマー度は良くなっている。いや、進行速度が停滞しているのだろう。ありがたいことだ。人間は一般的に相対比較しないと自身の幸せを実感できないものだけれど、今の和ちゃんの状態を見て一緒に生活をしていると幸せを感じることもあるから不思議だ。
そりゃあ、オレに自由はない。和ちゃんがデイサービスに出ても、午後3時にはオレは家にいる。夜、友達と飲みに出るということは全くない。でも、和ちゃんの笑顔がオレに“生きてるって感じ”を体感させてくれる。
まあ、人間それぞれだけど。

★7月14日
「ちょっと聞いてもらいたいことがあるんじゃけど」
「ちょっと見て欲しいことがあるんじゃけど」
和ちゃんがトイレから出てきて、これらの言葉を発すると必ずパンツにウンコが付着している。昨日もそうだった。
ただ、付着物を見ると下痢便のようで、トイレに誘導してパンツを脱がしてトイレにまたがらせると、軟便が肛門から飛び出してきた。
まあこの一回で終わり、今朝は固めのウンコが出たらしいけど、下痢は厄介だ。脳がピチピチ出したいとシグナルを発しても、肛門まで伝わるまでに時間差が一般人より長く、自分でも自覚のないままにピチピチと放出しまうのではないだろうか? もちろん、これはオレの想像だけれど。で、パンツ洗い専用のバケツを百均で買った。
昨日は孝ちゃんが我が家にやってきた。孝ちゃんは今、信用金庫の支店長をやっているのだけれど、幼稚園からの友人だ。長く会わない時期もあったけれど、孝ちゃんと会うと“ちゃん”呼びになる。和ちゃんとも以前は親しくしており、和ちゃんが最前線で働いている頃、孝ちゃんは和ちゃんのところに集金・営業に来ていたのだ。オレは和ちゃんに頻繁に叱られた。
「孝ちゃんみてえにシッカリせられえ!」
和ちゃんは孝ちゃんの名前は覚えていたけれど、何処でどんな関係があったのかは分からなかった。ただ、笑顔だけは振りまいていた。ここが和ちゃんのいいところだ。
玄関先で孝ちゃんが言った。
「ワシにゃあ経験がねえからよう分からんけど、オメー親不孝しとんじゃからシッカリ面倒みにゃあいけんでホンマ」
支店長らしい、風格ある指導だった。

★7月15日
和ちゃんは、やっぱ悩んではいるんだなあ!!
今朝のことだった。和ちゃんがトイレから出てきた。出てきたのはいいんだけれど、その右手にはトイレットペーパーが握られている。ちょっと違うな。トイレットペーパーを指で挟んでいる。オレはビックリ。
「和ちゃん。その紙は何なら?」
「あんた、私のウンコを見たいゆうて言よったが。じゃからウンコを拭いた紙」
アチャー!?
「アホウ!! そんな紙やこう早う捨てえ。ワシが見てえ言よったんは、和ちゃんのシッカリしたウンコそのものじゃがな。この前、和ちゃんの後から見せてもろうたがな」
「そうじゃったかなあ?」
和ちゃんには、和ちゃんのウンコの状況・状態報告するように頻繁に言っている。ウンコを放出した日はちゃんとカレンダーに印を付けているし、体調管理はシッカリやらないといけない。だから、どんなウンコが出ているかも知る必要があるわけだけど、ウーーン、参った。
でもなあ、和ちゃんは和ちゃんなりに一生懸命にオレの言うことを実践しようとしてくれてるんだよな。それを思うと、オレは最初ビックリして怒鳴ったけど、突然微笑ましくなって大笑いしてしまった。和ちゃんも訳も分からなく大笑い。
これはこれでいい。

★7月16日
昨夜はオレもいい感じで眠れた。涼しい。今朝もその名残はあり、和ちゃんはジャージの上下を着ている。
和ちゃん。今日はデイサービスはお休み。オレと一日を共にするのだけれど、最近思うのはよく笑う。嬉しそうな顔をすることが多いのだ。
さて今朝早々、和ちゃんはウンコに行った。オレは何も言わなかったけれど少々不安。和ちゃんがトイレから出てきた。その手にトイレットペーパーはなかった。
「こんなのが一つ出たよ」
と人差し指をオレに差し出す。ヤレヤレだ。

★7月17日
なにやら涼しい。少しヒンヤリするぐらいだ。長袖にしようか半袖にしようか? 和ちゃんに着せるモノで悩む。昨日も風呂に入れた。買い物から帰宅したら汗を背中にかいていたからだ。まあ、昼には暖かくなるだろう、ということで半袖を着させてデイサービスに出した。
ところで今朝、デイサービスであるわけもないテストがあると言いだし、和ちゃんのお父さんの名前から次々に書くよう頼まれた。めんどくさいので、
「分かった。和ちゃんのお父さんの名前が分かるんなら書くでえ」
と、意地悪く返答した。覚えているわけがない。ところが、
「中山一直」
と答えるではないですか。ビックリ。この人はオレのお爺ちゃんになるのだけれど、和ちゃんが幼い頃に亡くなっている。
「お母さんは?」
「それが分からんのよ」
お祖母ちゃんは和ちゃんが60歳の頃亡くなっているのだけれど、戦中・戦後も含め、母子として長く付き合ってきているのに忘れており、わずか3年間程の父子関係の名前を記憶している。
アルツハイマーは不思議だ。

★7月18日
今日、デイサービス・和みのときでは、職員と利用者でそばを打つと聞かされた。なかなか頑張って、あの手この手で工夫してくれている。ありがたいことだ。
さて、今日の毎日新聞朝刊岡山県版に“背番号13青春録”の記事が掲載された。こちらの意図をくみとってくれた内容のある記事だった。もちろん、オレの顔も写っているのだけれど、和ちゃんと一緒にローソンで購入して見た。
「この人はおたく?」
「ワシじゃあなかったら誰なら?」
「おたく、エライんじゃなあ!!」
どちらにしても、今頃は忘れているだろうけど。

★7月19日
和ちゃんはデイサービスへお出掛けのとき、オレが見送る方を見て必ず手を振る。そしてニコッと微笑む。今朝もそうだった。こんな和ちゃんがオレは大好きだ。
「おはようございます」
「ありがとうございました。さようなら」
送迎の人にも、こういう言葉も忘れず発する。ピョコンと頭も下げる。オカッパだからなおさら可愛い。
さて昨日、和ちゃんは帰宅して着替えをするなりオレに問うた。
「あのなあ。おカネを払うてくれた? おカネを払うてくれんと肩身が狭いからなあ!」
デイサービスではいろいろな作業をする。といってもお遊戯みたいなものだけれど、それに食事等々多々費用がかかると和ちゃんは考えているのだ。それは正解だけど、
エライ!! と思う。
“肩身が狭い”という意識がある間は、アルツハイマーも停滞しているのだろうから?

★7月20日
今日は日曜日。今、買い物に出る前に和ちゃんの入れ歯消毒をしている。その和ちゃん。テレビでヨチヨチ歩きしている愛子様を観ながら画面に向かって手を振っている。愛子様が自分に手を振っていると確信しているらしい。で、入れ歯がないものだから、ヒヒヒヒと顔を歪めて微笑んでいる。ちょっとこの光景は異様?
昨夜、西大寺は夜町で花火が午後9時から30分間上がった。我が家からは絶景。川向こうで打ち上げているのだから迫力もある。
♪ドッカーーン♪
それでも和ちゃんは目覚めない。ほんとうに眠りが深い。
さて、デイサービス・ゆう倶楽部長浜でも8月1日より入浴できるようになった。この夏は少し楽ができるかな?

★7月21日
現在時、午前11時9分。少し前、プラッツで買い物をして帰ってきたばかり。和ちゃんは今、プラッツのビニール袋をキレイにたたんでいる。三角形に折り込んでコンパクトにする。これがなかなか上手いのだ。
昨日、オレと和ちゃんの会話。
「和ちゃんよお。ちょっと難しいこと聞くけど、ワシは和ちゃんの何なら?」
「そうじゃなあ。難しいなあ! ウーン? 相棒じゃが」
「相棒? そんなら、相棒いうなあ何なら?」
「いつも側におって、笑わせてくれる人かなあ?」
「ほんなら、ワシはいつまで和ちゃんの相棒をせんといけんのなら?」
「まだまだ続くと思うよ。ヒヒヒヒヒッ」
“続く”か? 意味深い。

★7月22日
今日は市民病院でオレの薬をもらってきた。そして、夕方に読売新聞記者が取材に来る。
というわけで、和ちゃんは普段より2時間多くデイサービス・和みのときで過ごして帰ってくる。得意のビニール袋をたたんでいるはずだ。和ちゃんのバックにこっそり入れ、北の迫さんに上手くできたら誉めてやってくれと頼んでおいた。今日も笑顔で帰宅するだろう。

★7月23日
昨日はやはり、取材が少し延びた。いつもだったら和ちゃんが送迎車で我が家の前に着いたときは必ず迎えに出てるのだけれど、昨日は出られなかった。取材中、車の停車する音が聞こえたのだけれど、出るのが遅れた。玄関前で待ち受けると、なにやら半泣き状態で手を伸ばしてきた。家の中に入り、読売の記者さんに挨拶。どういうわけか笑顔で挨拶ができる。エライ!!
しかし、和ちゃんにもリズムのようなものが出来上がっているのかもしれない。買い物に出ても、後からついて歩くと、スタスタと一人で目的地に向かっている。脳は完璧には破壊されていないのだ。
昨夜も和ちゃんはシッカリ眠り、今、和ちゃんの役割分担であるビニール袋を楽しそうにたたんでいる。ウンコも二つ出たそうだ。

★7月24日
今朝、デイサービス・ゆう倶楽部長浜に出発する前、和ちゃんが泣いた。和ちゃんから言わせれば、オレが泣かしたということらしい。
実は、オレの足の親指と人差し指? で、和ちゃんのプラプラしている二の腕を挟んだ。どちらかといえば弾みで抓ったという状態。プラプラとしているので挟みやすい。
「イテー」
と叫んだと思ったら、半泣きになり、
「和ちゃん。大袈裟に言うな。どねえもなってねえじゃねえかホンマ」
と言ったら、
「腕の中が痛いんじゃ」
と涙を流しだした。オレはそれがすごく可笑しくなり大笑い。
「どうせ私はクソババアじゃからなあ」
今朝は結局、ちょっとふて腐れてデイサービスに向かった。

★7月25日
キャー!!
岡山東の野球部が理大附に勝った。ただいま混乱中。
日記に集中できなーーい。

★7月27日
なんか爽やかな朝だなあ!!
もっとも、昨日は母校の東商がコールド負け。友人が監督をする南も負けてしまうし、淋しい夏になってしまった。
と思いきや、今朝メールチェックをすると、高校時代の同級生(女性)からメールあり。背番号13青春録を読んでくれたこと。このHPも以前から見ていてくれて、
「最近は、和ちゃんに優しいですね」
とあった。
ヨッシャ!! 今日も元気を出して行こう。

★7月28日
午前8時。蝉が強烈に騒いでいる。オレの歳になると、いや、オレだけかもしれないけれど蝉の声は騒音で暑苦しい。やっぱなあ! 老人にならないと老人の気持ちは理解できないだろうなあ。アルツハイマーも、アルツハイマーにならないと、その人の苦しみなど理解できないに違いない。和ちゃんも度々、そんな事を言ってきている。
ところで和ちゃん。オレの努力もあってか、カレンダーで確認するとこの半月連続で風呂に入っている。湯冷めの心配がないからオレも余裕で入れられるけど、和ちゃんを入れると一汗かいてしまうからオレが先に入浴というのは避けている。
今、和ちゃんは日課の五円玉の数を数えている。久しぶりに今日は、花でも買おう。喜ぶ顔が見たいから。

★7月29日
去年の7月29日。オレと和ちゃんは林病院を訪ねた。脳のCT写真を撮り、痴呆度を見極めるための検査である長谷川式もやった。オレは和ちゃんの、あまりの知能低下? に愕然とさせられた。
アルツハイマー病とハッキリ宣告されたのは7月31日だけれど、今日、7月29日がオレと和ちゃんの新たな人生行路の始まりの日だと認知している。メモリアルデイだ。
この一年。いろんな事があった。でもなあ、和ちゃんの病気を支えてくれる人たちが大勢いる。もちろんビジネスとして支えてくれている人たちが大半だけれど、それでも感謝の気持ちでイッパイだ。
和ちゃんを支えてくれた人たちへ。この一年、本当にありがとうございました。今朝も、元気でデイサービス・和みのときへ出発して行きました。
で、昨日は花を買い一緒に活け、笑い、風呂に入れ、キャッチボールをし、なんだか普段以上に長閑な一日だった。いつまで見られるか分からないけど、和ちゃんの笑顔を見るとオレまで嬉しくなる。
和ちゃんのサポーターの皆様。これからもヨロシクお願いします。

★7月30日
週間天気予報によると、この一週間は好天続きらしい。まあ、これから段々暑くなっていくのだろう。
今、冬物のいくつかを洗濯している。綿入れも天日干し。なにやら、やらなければいけないことが目に入ってしまう。油断していて、革ジャンの一つをカビだらけにしてしまった。この革ジャンは8年は着てるかな?
さて、今日から和ちゃんのパンツがMからLに変わる。和ちゃんの下腹がポコンと出ていて、これは病気ではないのだけれど、Mパンではきつそうだから。もちろんMも併用して履いてもらうけど、Lの方が心地よいのなら新たに購入しなければならない。もっとも、デイサービス・和みのときの北の迫さんにお願いするのだけれどね。
ところで和ちゃん。今朝は一つ落下させたのこと。そして今、テレビの前に寝転がっている。
「和ちゃん。どしたんなら?」
「退屈なんじゃ」
デイサービスに行かない日は、オレが遊び相手にならなければならない。これって結構シンドイ。

★7月31日
いやあ!! 夏らしくなってきた。岡山市内を久々に闊歩していたら身体が臭いのに気付いた。脇の下をクンクン。流行の言葉を使えばデリケートエリアをクンクン。まあ、こんなもんだろうと思ったけれど、純粋培養の若者にはオジン臭いかもしれない。でもなあ、このクソ暑いのに、ビカーンビカーン安物の香水の悪臭を撒き散らしてるのもどうかと思うぜホンマのホンマ。
なんか知らないけど、和ちゃんは今朝も元気よくデイサービス・ゆう倶楽部長浜へと出陣して行った。オレの気持ちのあり方と、和ちゃんのアルツハイマーを足して2で割って、去年の今頃と比較すると、断然、今の方がいい。
これから本格的な夏に突入する。夏バテさせないよう、気配りしなくっちゃ。
オット!! ところで、8月7日の午後2時20分より30分間、FM倉敷でオレの声が流れます。倉敷地域限定だけれど!! 生です。

★8月2日
高校野球観戦続く。この炎天下、身体がアウト。シンドイ。
和ちゃんはスコブル元気。今朝も特大3発落下させる。

★8月3日
いやいや、今日はHOT!!
今、コープから買い物をして帰宅したばかりの午前10時45分。往復で和ちゃんが一汗かいたので上半身を拭いた。和ちゃんはジュースを飲んだ後、コープのビニール袋を折り畳んでいる最中。まだまだ夏バテの様子は全くない。オレより夏には抵抗力がありそうだ。基本的には頑健な女性だから。
さて昨日。和ちゃんが通うデイサービス・ゆう倶楽部長浜は、8月1日より新居へ転居。というわけで新居への出陣は初日だったのだけれど、混乱もなく過ごせたと連絡帳にはあった。
「和ちゃん。風呂から見える風景が絶景らしいじゃねえか?」
「ウーン。スゴカッタなあ!! それに、ご主人がすばらしいもん」
新居からは入浴が出来るようになり、和ちゃんも入浴してきた。そして、管理責任者である鹿村さんと鹿村さんのご主人に送ってもらって帰宅したのだけれど、和ちゃんはご主人のことを今朝も覚えていた。
「無口な人じゃけどなあ、『和子さん』ゆうて優しゅう声かけてくれて、やるときはやる人なんよ」
と、なにやら偉そうに解説してくれる。
昨日のことを点と点だけれど記憶している。デイサービス・ゆう倶楽部長浜に通い始めて1年近く。今の安定した和ちゃんの最大因子は、ゆう倶楽部長浜でお世話になってきたからのような気がする。

★8月5日
夏バテ。キッチリシンドイ。
2.3日、日記を休もう。
和ちゃんは、ビックリするほど元気。最近の熱帯夜でも爆睡。オレは眠れないで息切れしている。
読者の皆さん、熱中お見舞い申し上げます。

★8月9日
久々の日記だ。
しかし、この少しの空白の間、いろんな出来事があった。
オレは夏バテと思うのだけれど、体重が2キロ程度落ちた。食欲減退。2日の日に野球観戦したのが引き金だったと思う。炎天下の下、我が母校の練習試合を2試合観てしまったのだから。
それに、気疲れもあった。背番号13青春録の本の件で先輩のプロ野球選手にあるお願い事をしたりもしたし。慣れない事はやらない方がいい。でも、先輩は優しかったな。
本の件でいろいろ動いたことと、夜、眠れない日が4日ほど続いた。クーラーなしだからシビレル。和ちゃんは、暑くない、と言って扇風機さえ必要としていない。でも風は送るようにして、寝汗をかけば背中を拭くよう心掛けている。まあ、そんなこんなで、一昨日は微熱が出た。
そして台風。我が家はヤバイ。風速50メートルなどと聞いてしまうと家の屋根は飛び、ガラスなどイチコロだろう。
というわけで、和ちゃんは昨夜、デイサービス・ゆう倶楽部長浜でお泊まりをした。自主避難させたわけだけど、これは介護保険対象外。一泊5000円。でも安い。アルツハイマーの和ちゃんを抱えて、友人等の家にお世話になるわけにいかない。オレも相手も気疲れする。
今朝一番で電話。やはり和ちゃんは爆睡していたそうだ。どこででも眠れるんだよな和ちゃんは。デイサービス・ゆう倶楽部長浜のお泊まり第1号になってしまいました。
なんかな、早く和ちゃんの笑顔が見たくて仕方ないオレと、もう2・3日、オレ一人だけの生活でありたいと願う複雑な心境のオレが存在している。